ご注意
 本コンテンツの内容は、年度ごとに異なる場合があります。出来るだけ最新の情報を掲載するように努力しておりますが、一部現状とそぐわない部分がある場合がございますので、あらかじめご了承ください。



入隊後の階級と身分

一部前のコンテンツと内容が重複しますが、ここで改めて入隊後の航空学生の
身分とその推移を説明します。

入隊後の階級の推移
[解説]
 入隊時の身分は「航空学生」ですが、これは、将来航空機操縦者となる事が決まっている「空曹候補生」とも言えます。航空学生は2年制の学校のようなものです。体育会系の大学以上に先輩、後輩の関係は厳しく、強い絆で結ばれています。公的資格はありませんが、航空学生卒業時には理工科系短期大学卒業程度の学力が身に付く事になります。また、卒業と同時に幹部候補生として飛行訓練に入ります。

入隊後の訓練・生活

初任期(入隊〜翌年3月)
※学科および訓練内容は、年度によって変更になる場合があります。
 晴れて航空学生として自衛隊生活をスタートした学生は、まず自衛官として基本的な訓練を受けます。また、将来の戦闘機パイロットとして必要な学科教育の基本的な部分を学びます。具体的な訓練の内容は以下をご覧ください。
学科教育
■数学 代数・幾何など
■物理学 電子回路・材料力学・航空機力学など
■英語 基礎英語など
■社会など 政治学や哲学、戦史など
教練・体育など
■基本教練 敬礼、規律、心構え等、自衛官としての基礎的事項
■ドリル訓練

ドリル・ブラスバンドに分かれての訓練・展示など

■体育 水泳(遠泳)・駅伝・剣道・器械体操・その他
■その他 30Km行軍・射撃(小銃)・陣地構築・研修など

●1年生の生活について

 
 入隊時には、先任期(2年生)の学生がマンツーマンで付いて指導を行います。これを「対番(たいばん)」と言います。対番の先輩は、生活の細かなことから新入生の悩み事など、文字通り公私共に指導を行い、入隊したての学生にとってはまさに兄貴的な存在です。新入生は対番に助けられながら、徐々に自衛隊生活にも慣れ、1年後には新たな新入生を指導できるまでに成長します。

 最初はとにかく自衛官としての基本訓練に終始します。敬礼や分隊行動などの基本教練から武器の扱い方、陣地構築、基礎体力強化など、飛行機に関係するような訓練は皆無といって良いでしょう。まずは、良きパイロットである前に良き自衛官としての訓練を受ける事になるのです。
 学生は必ずクラブ活動(運動部しかありません)に参加することが義務づけられています。クラブは、サッカー、ラグビー、バレー、剣道の4つで、本人の希望と上官の判断により振り分けら
れます。小、中学校と剣道を習い、高校ではテニス部だった私(nezumi)は、なぜかラグビー部に強制入部させられ、2年間を過ごしました。
 そのほかにも航空学生は、伝統のドリルに参加しなければいけません。ブラスバンド隊、またはドリル隊に分かれて日頃から鍛えた教練の技を使い、様々な演技を行っていきます。練習の成果は、地元のお祭りや近隣の航空基地での航空祭などで披露され、その統一された演技で観客を魅了しています。1年生はの段階ではまだ大きな舞台での演技は行いませんが、訓練は早い段階から行われます。このドリル訓練によって、協調性や周囲と息を合わせる力を養うのです。
 航空学生の起床は午前6時(冬季は6時半)、就寝は午後10時(申請すれば自習室のみ0時まで延灯可能)で、毎日規則正しい生活を送ります。また、入隊後約1ヶ月は外出は禁止です。1ヶ月経過すると外出は許可されますが、特別外出(外泊)は7月頃から月に1度しか許可されません。学生は、貴重な外泊をどこで使うかにいつも頭を悩ませていました。また、外泊時も自衛官である以上、所在が明白でなければいけませんので、「宿泊先」としての下宿を借りる事を義務づけられています。学生達はそれぞれ3〜5人のグループで(先輩達から代々受け継がれた)下宿を借り、そこに私物や私服などを置きます。

 1年時の訓練の目玉とされているのが30Km行軍や3時間遠泳でしょうか。特に遠泳の前の水泳訓練はすさまじく、泳ぎの苦手な人にとっては地獄を見ることになるでしょう。しかし、まったくのカナヅチでも完全に泳げるようになるのがこの訓練の売り(?)です。泳げるようになりたい方は是非航空学生に入隊しましょう。ちなみに、実際の海での遠泳訓練は、休憩時間に売店でアイスクリームを食べることが出来るので、学生には人気の訓練でした。運が良ければ水着のおねーちゃんも拝めますし...。

●学科教育について

 航空学生でも通 常の大学と同じように定期試験があります。各教科にはやはり大学と同じように単位 があります。航空学生の試験は、赤点が80点に設定されていて、これに満たない場合は追試を受けることになります。しかし、追試の合格ラインは90点以上とかなり厳しく、かなりの苦境に立たされてしまいます。もしも、追試で90点以上取れなかった場合は......ほとんどの場合は学力不良ということで航空学生「免」(航空学生をクビ)になってしまいます。一般 の学校の様に留年が許可されることは滅多にありません。この部分はかなりシビアです。国民の血税から給料をもらって訓練を受けている国家公務員である以上、試験で結果 を出せないということは、仕事をしていないことと同じ事だからです。



後任期(入隊1年後3月〜翌年3月)
※学科および訓練内容は、年度によって変更になる場合があります。
 航空学生に入隊して早1年、階級も空士長に昇進し、自衛官らしくなってきた頃です。痩せっぽっちだった体も逞しくなり、後輩も出来て航空学生としての自覚も芽生えてきます。後任期からは学科教育も飛行機に特化した専門的な分野になります。体育や教練もパイロットとしての資質を磨くためのものに変わってきます。また、部隊指揮や野戦訓練など、自衛官としての訓練もレベルの高い訓練を行うようになります。
学科教育
■数学 代数・幾何・線形代数学など
■物理学 材料力学・機体構造論・電子計算機・
航空原動機・航空機力学など
■英語 英語・航空英語など
■その他 気象学・心理学など
教練・体育など
■教練 部隊指揮、観閲式参加など
■ドリル訓練

ドリル・ブラスバンドに分かれての訓練・展示など

■体育 水泳(遠泳)・駅伝・銃剣道・器械体操・その他
■その他 60Km行軍・断郊訓練・射撃(小銃)・野戦訓練・
山岳保命訓練・岐阜/小牧研修など

●2年生の生活について

 いよいよ2年生(先任期)となりました。入隊時にお世話になった様に、今度は後輩の対番として様々な指導を行っていくようになります。1年生の時と違って、上級生がいませんので、ある意味生活は非常に楽になります。体力も付いていますので、少々の訓練ではへこたれなくもなっています。

 しかし、体力や学力の向上に伴って全般 的に訓練も学科も1年生とは比べ物にならないほど高度になります。1年生の時、あれほど辛かった30Km行軍が今度は60Kmにパワーアップ。もちろん、陸上自衛隊のレンジャー訓練ほどの過激さはありませんが、夜通 し歩くこの訓練は本当に辛いものでした。そのほかにも、4〜5人のチームで助け合いながら山を駆け抜ける「断郊訓練」など、体力勝負の訓練が目白押しです。
 また、自衛官としての訓練も本格的になります。1年生で学んだ陣地構築や射撃、銃の分解・組み立てなどの訓練の仕上げとして、大がかりな戦闘訓練が行われます。広大な演習場で二手に分かれて模擬戦闘を3日間に渡って行うのです。食料はわずか1日分。水たまりの泥水で喉の渇きを癒し、暗闇の中をほふく前進で敵陣を目指します。自分が航空学生である前に、いち自衛官であることを改めて思い知らされる訓練でした。陸自では、当たり前の訓練なんでしょうか。陸上自衛官の皆さん、本当に敬服します。
 2年生からは特別 外出(外泊)が月2回になります。出逢いのチャンスも広がり、ちらほらと彼女が出来る学生も現れます。また、クリスマス近くにはダンスパーティーも行われ、むさ苦しい男所帯(現在は女子学生もいるのかな?)に一時の潤いをもたらします。なぜか女子大生なんかが結構来てくれるのです。
 卒業が近くなると、他にも様々な基地研修や行事などが行われます。どれも非常に有意義で楽しいものですが、その中でも「山岳保命訓練」などは学生達が最も楽しみにしている訓練ではないでしょうか。(内容はヒ・ミ・ツ)


●最後に
 このように約24ヶ月の厳しい訓練を乗り越えた航空学生達は厳しい訓練を耐え抜いた自信と、いよいよ憧れの飛行機に乗ることができる期待を胸に次なるステージ「飛行幹部候補生課程」に巣立っていくのです。本文を読まれた方には訓練の辛い部分ばかりが目立ったかもしれませんが、航空学生出身者の話を聞くと、「あの2年間は大切だった」と誰もが言うはずです。航空自衛隊の「槍の穂先」である戦闘機パイロットとなるための最初の登竜門として、航空学生の訓練は決して甘いものではありません。しかし、これを乗り切った学生達はこれから始まる更に過酷な訓練にも耐えうる精神力を身に付け、国防の任を担う第一線のパイロットとして成長していくのです。