航空学生を卒業して飛行幹部候補生課程に入校すると、実際に飛行機を
操縦する訓練に入ります。
初級操縦課程(T-3)は山口県の防府市と 静岡県の藤枝市に分かれて約半年間の訓練が行われます。私は静岡組 でした。
無事にイニシャルソロフライト(初単独飛行)も終えてT-3 の操縦に余裕が出始めると、候補生達は自分の勇姿を写真に納めようとソロフライトの度にポケットに「写ルンです」を忍ばせて上空撮影会を
開いていました。もちろん、訓練中にそんな事をしていい訳ありません。
通常、学生パイロットが単独飛行をする場合、教官機が各訓練空域を巡回して学生機を監視する事になっています。学生達は、教官機が他のエリアに行った隙に
「パチリ」とやるわけです。 |
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バイザーに写っていたカメラ状の謎の物体▲
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ある日、同期がいつもの様に周囲を確認してポケットからカメラを取出した瞬間、VHF無線機に「プツ・プツ
プツ.......」という聞き慣れない断続音が入りました。これは、模擬空中戦などで相手の背後に付いた時、「ロックオンして、機銃を発射したぞ!」という意味で
スロットルにある無線機のスイッチを断続的に押した時の音なのです。 (無線機のスイッチを発射トリガーに見立てているんですね)
あわてて周りを見回した同期の目に映ったものは......自分の真後ろ上方にピタリとついて来ている教官機の姿だったのでした。教官は、死角からずっと見てたんですね。「なんだ!その緑の箱(カメラ)は!」
教官の怒鳴り声は無線に乗って他のエリアで撮影会をしていた学生にも届きました。みんな、自分が見つかったと思ってあわてて周囲を見回したそうです。
基地に帰投したその同期は真っ青になりながら 教官の所へ出頭しました。坊主頭か、外出禁止か、それともクビか...。
待ち受けていた教官は、同期を見るなり開口一番にこう言いました。 「チェッキング・シックスが出来てないぞ!!」と.....。そう言った教官はニヤリと笑い、奇跡的におとがめは無かったそうです。
「チェッキングシックス」とは、「6時方向(つまり真後ろ)の警戒を怠るな!!」という、戦闘機乗りの合い言葉なのです。
まだPスーツがオレンジだった頃のエピソード。
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