T-1の燃料センサー

 第2初級操縦課程(T-1)に入校して間もなくの話。

実際に操縦訓練に入る前に、T-1の機体構造についての簡単な レクチャーがあります。殆どの操縦系統をワイヤーとモーター で作動させるT-3と違って、T-1では油圧で作動する部分が存在します。

学生達は、いままで経験のない未知の作動機構に興味深々でした。 エンジンの概要、主翼構造と、レクチャーは順調に進み、胴体の構造に進んだ時の事です。

教官が、「次は燃料残料センサーの構造を見てもらう」と言って、教材を取りに席を外しました。 燃料残料センサー........なんとハイテク機械っぽい響きでしょう。 さすが、古くてもジェット機。高度な機器が搭載されているのだ な...と、皆感心しながら教官を待ちました。

数分後、教材を手に 教官が戻って来ました。「これが、センサーの実物だ」とのたまう 教官様が差し出したものを見て、私達は驚愕しました。 .......それは、水洗トイレの貯水タンクなんかに入っているフロートを巨大化した様な物だったのです!!(丸いプラスチックのボールに 棒が付いてるヤツ)
つまり、燃料が減れば浮かべているこのフロートが液面と一緒に下がるので、フロートに直結してある棒を通して燃料の残料が分かる........というカラクリなのです。
T-1の燃料センサーと同型の「トイレの水残量センサー」▲

これが、我が国が誇る国産初のジェット練習機T-1の「燃料センサー」の全貌なのでした。私は、一瞬不安になりました。「背面飛行をしたらどうなるのだろう.......燃料すっからかんでも満タンの 表示になっちゃうんだろうか........??」 この疑問を教官に質問するべきだろうか......いや、こんな質問をしたらばかにされてしまうかも.............。

葛藤する私をよそにレクチャーは次へと進み、とうとうこの疑問は質問できないままに終わりました。

しかし以外と早くこの疑問が解明される日が来たのです。それは、T-1でのアクロの訓練中の事です。スプリットSを行い、機体が背面状態になった時、ちらりと計器版を見た私が見た物は.............。

満タン付近をゆらゆらと指している燃料計の姿だったのでした。


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