拷問!?海上保命訓練


  航空学生を卒業した学生達は、まず地上準備課程という所に 入校します。何をする所なのかというと、落下傘降下訓練や耐G訓練など、飛行機に乗る為に最低限必要な準備や体験をする課程なのです。

その訓練の一つに、「海上保命訓練」というのがあります。

これは、緊急脱出して海上に着水した場合に、どうやって生き延びるか....というサバイバル訓練のひとつです。実際、着水した後に、風で膨らんだパラシュートに海面を引きずられてパイロットが水死してしまうケースもある為、着水したら素早くハーネス(留具) を外すこの訓練は、かなり重要な訓練なのです。

さて、実際の訓練ですが、まず地上で予行演習があります。開いたパラシュートを装着した状態で地面に寝そべり、巨大な扇風機で風を送るのです。

当然、パラシュートは膨らみ、人間はふくらんだパラシュートで引きずられ始めます。学生は、その状態から素早くパラシュートを切り離さなければいけないのです。 土煙を挙げて人間がパラシュートに引きずられる様子は、まるで映画なんかの暴走族のリンチのシーンを見ているようでした(笑)。

地上での予行演習が終わったら、次はいよいよ実際に海上で訓練を行います。学生達は、航空機に搭乗する時とほとんど同じ装備を付けて海上保安庁の船から海に落とされます。

そして、モーターボートで海面を引きずり回されるのです。実際に引きずられてみると、想像していたよりも水圧がすごく、「なるほど、これなら人が死ぬケースもあるだろう」と、妙に納得してしまいました。私は何とかハーネスを切り離したものの、大量に水を飲んでしまいました。

さて、無事にパラシュートを切り離すと、 次は救命浮舟(救命ボート)に乗り込み、「助けられる」訓練です。

乗り込むのは折り畳み型の1人乗りゴムボートなのですが、ヘルメットや救命装備を付けたままで乗り 込むのは思ったより大変で、海上のあちらこちらで転覆して水柱を上げる同期の姿が見られました。

何とかボートに乗り込み、海上にプカプカと浮かんでいると、どこからかKV-107 (救難ヘリ)がやってきます。そして頭上でホバリングしながらホイスト(救命ロープ)を降ろします。そのホイストに掴まってヘリに引き上げられるワケです。

私が救助される番になり、メディック(救難隊員)と共に機上に引き上げられる途中、ふと海岸のほうに目をやった私は思わず赤面してしまいました。 実は、この訓練は一般の海水浴場の沖で行われていたのです。そこに大型ヘリが飛来しただけでも大騒ぎなのに、超低空で何やらぐったりした人間を吊り上げているのです。

何も知らない 一般市民は本当に事故が起こったのかと思った事でしょう。 大騒ぎする子供やこちらを指さしている人、ビデオを回す人まで.........。干物の様にぶら下がっている私は注目の的でした。

「死んだフリ、死んだフリ........」 恥ずかしさのあまり、思わず死んだフリをしていた私は、機上の救難隊員に「あー。死んだふりまで練習しなくていいから。」 と笑われてしまいました............。


......END